昨年、東京で世界銀行の年次総会が開催された。余り報道などもされず、静かに終わってしまった感がある。しかし、80年代よりインドの「ナルマダ・ダム」等に象徴されるように開発途上国における大規模開発で、数多の貧しい人々を更なる貧困に追いやり世界中の民衆やNGOからの怒りを買った世界銀行は、今、一体何をしているのか。去る2月4日、法政大学の松本悟さんを講師に迎え、世界銀行の現在の役割と開発案件について勉強会を開催した。
世界銀行の大きな特徴としては、その「信用力」である。例えば、ラオスの「ナムトゥン2・ダム」は80年代に計画され、一旦は環境面での負荷から頓挫した案件であるが、2005年に世銀は融資を決定し、2010年にはフル稼働され、現在はナムトゥン川下流への影響や、大規模な住民の立退き問題が大きなイシューとなっている。ところがこの案件、世銀はADBと併せても僅かな金額しか融資しておらず、「エクイティ・ファイナンス」、「借入」によって市場からの資金調達がプロジェクトの資金源となっている。しかし、世銀が僅かでも入ることで案件自体に「信用力」が生まれ、市場から資金が調達できてしまった。世銀の役割とは開発における「梃(てこ)」であり、依然として大きな影響力を有している事が分かる。
一方で、世銀はNGOと共に「環境ガイドライン」という、開発案件が人権侵害、環境破壊を起こさないかどうかを審査する「基準」を作成してきた。現在、中国等の新興国が開発途上国への融資を増大し、その影響力を強めている中で、世銀の持つ「環境ガイドライン」や世銀の案件へのガバナンスが「より悪くないもの」として、クローズ・アップされている。また、NGOも世銀を支援する事で中国の開発政策がrace to bottom(底辺への競争)に向かわないように動いており、現在の国際政治に対応する形を取っているようだ。この事をどう捉えるか難しいところだが、中国への対抗軸の役割を世銀が担っている構造を考えると、グローバル時代の開発政策における中国の意味、役割には更に監視の目が必要であると思われる。開発によって人生を滅茶苦茶にされてしまう途上国に生きる民衆の生活への想像力を高めると共に、私達は「おカネ」をどのように使い、分配していくのかを考える機会を更に増やさなければならない。尚、講演に際してはNPOバンク「もやい福岡」の古瀬さんより、市民バンクの活動紹介もあり、具体的なアクションについても議論を深める事が出来た。(こぐま)
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